前回の記事に続きまして、AVID HD OMNIの動作を検証してまいります。今回はHD OMNIをCore Audioのインターフェースとして使用した際の動作についてです。
まず大前提といたしまして、HD OMNIをCore Audioのインターフェースとして使用するには、Pro Tools HDシステムが必須となります。HD OMNIはあくまでPro Tools HDのカードと接続して使用することを前提としております。これはその他のHD用インターフェース、HD I/OやHD MADIでも同様です。
Pro Tools HDシステムをCore Audioのインターフェースとして使用することは、ずっと以前から可能でした。Pro Tools HD ソフトウェアをインストールする際に、 “Digidesign CoreAudio Manager” というアプリーケーションが一緒にインストールされる仕様になっており、このCoreAudio Managerを介することでHDシステムがCore Audioのインターフェースとして動作いたします。下の画像がそのCoreAudio Managerです。これは003など、いくつかのPro Tools LE用インターフェースでも採用されていた方式ですので、ご存知の方も多いかと思います。
下の画像をご覧いただくと、Core Audioのインターフェースとして8イン8アウトの “Digidesign HW (HD)” がリストアップされているのが分かります。ただCore Audioのインターフェースとして動作させる場合、対応サンプルレートが最高で96kHzまでになってしまいますのでご注意ください。
これまでも192 I/OなどをCore Audioのインターフェースとして使用することは可能ではあったものの、あくまでPro Tools HDのおまけ的な機能という印象が強かったように思います。CoreAudio Managerのバージョンによっては動作が不安定だったり、何よりもネイティブDAWでは一般的になっているインターフェース上でのダイレクトモニタリングができなかったため、積極的に使用するということはあまりなかったように思います。
それではHD OMNIを使用するとこれまでと何が違うのか、検証してまいりましょう。
HD OMNIをCore Audioのインターフェースとして使用する際は、これまでと同様にCoreAudio Managerを介することになります。例えばLogic Pro 9のオーディオドライバの設定項目で “Digidesign HW (HD)” は選択してLogicを起動すると、バックグランドで自動的にCoreAudio Managerが立ち上がり、Pro Tools HDのシステムをCore Audioで使用することが可能になります。
ここで注意が必要なのは、CoreAudio Managerもバッファサイズの設定項目があるということです。このCoreAudio ManagerのバッファサイズとDAWのバッファサイズが一致していないと、オーディオがまともに再生されません。
CoreAudio Managerのバッファサイズは、DAWやiTunesなど、1つのアプリでもCoreAudio Managerを掴んでしまうと変更できなくなってしまうので、DAWを起動する前にあらかじめDAWに合わせたバッファサイズに設定しておくか、DAWの起動後にDAW側でバッファサイズを変更するかしなければいけません。DAWの起動後にCoreAudio Managerとバッファサイズが一致していないことに気づいたとしても、DAW側でバッファサイズを変更してあげれば、CoreAudio Managerのバッファサイズもその値に追従してくれます。
ここまではこれまでのCoreAudio Managerの動作と何ら変わりありません。Pro Tools HD 8.1に付属するCoreAudio Manager 8.1が決定的に違うのは、DAWがCoreAudio Managerを掴んでしまった後でも、CoreAudio Managerの「HW設定」ボタンを押し、「ハードウェア設定」の変更が可能になったことです。以前のバージョンでは、この「HW設定」ボタンがDAWの起動後にグレーアウトしてしまい、DAW起動中は一切変更ができない仕様になっておりました。
CoreAudio Managerの「HW設定」ボタンを押すと、前回の記事でご紹介させていただいたPro Tools HDの「ハードウェア設定」と同じ画面が登場いたします。
つまりDAWがCoreAudio Managerを掴んだ状態であったとしても、入出力端子の変更や入力レベルの変更などが簡単に行えるわけです。デジデザインのCoreAudio Managerを使ったことのある方でしたら、この仕様変更でいかに便利になるかお分かりいただけるかと思います。
ちなみにこの「ハードウェア設定」の画面が開いている時は、DAWが再生状態にあったとしても、インターフェースからの出音は一時的に出なくなる仕様になっているようです。(「ハードウェア設定」を閉じれば再び音が出ます。)
特にHD OMNIをインターフェースと使用している時に大きいのは、「ハードウェア設定」の「ミキサー」のタグを操作できることです。つまりHD OMNIをダイレクトモニタリング用のミキサー付きのインターフェースとして使用することができるのです。
HD OMNIをPro Tools HDで使用した時のように、DAWでレコーディング/モニター用のオーディオトラックを作った時点でミキサーの入力がミュートされるという機能まではさすがに動きませんが、これはその他のネイティブDAW用インターフェースを使用した際も同様です。DAW側でソフトウェアモニタリング機能を切っておくか、DAW上のレコーディング/モニター用のオーディオトラックをミュートしておけば良いのです。
ネイティブDAW用インターフェースとしてのダイレクトモニタリングの機能としては、他社インターフェースに劣る部分が多々あるとは思いますが、Pro Tools HDとネイティブDAWを同じマシンで使用されるという方の多くは、プライベートスタジオでの作業というケースが多いと思いますので、個人的には必要十分な機能を備えていると思います。
その他、Pro Tools HDとHD OMNIの組み合わせで使用している際に現れる “キュー1-2″ の出力も、CoreAudio Managerでの動作時には使用できませんでした。つまりHD OMNIフロントパネル右側の “CUE” ボタンを押してしまうと、ヘッドホン端子からは何も出力されないことになってしまいます。
いかがでしょう?現在Pro Tools HDシステムとは別にネイティブDAW用のインターフェースをご用意されている方、もしくはPro Tools HDとネイティブDAWのマシンをセパレートされている方は、「HD OMNI 1台でいけるんじゃない?」と思われたのではないでしょうか。HD OMNIでしたらスピーカーをダイレクトに接続できますし、制作環境を非常にコンパクトにすることができそうですね。
後は、今の時点では何ら機能していないHD OMNIの背面にある “REMOTE” 端子を利用したリモートコントローラが発売されれば、更に言うことなしです。(今日現在では発売のアナウンスは入ってきておりません。)
ただHD OMNI1台ですと、やはり不便な点も出てまいります。Pro Tools HDを使用している際には、CoreAudio Managerを使用することができなくなってしまうのです。Pro Tools HDが起動していると、CoreAudio Managerでは「ハードウェアが使用中」という警告が表示され、Core Audioの出力をすることが出来なくなってしまいます。これは仕様的に致し方ないところです。
Pro Tools HDを起動しながらiTunesを試聴したりするケースは十分に考えられます。ただHD OMNIを使用している場合、もしもADAT入力を使用していないのでしたら、Mac Proの光出力をHD OMNIのOpticalインに接続しておき、モニターミキサーでモニタリング可能にしておくなどの回避策も考えられます。HD OMNIならではのアイデアです。
そして最後に、そして最も重要な、CoreAudio Managerの安定性についてです。今回の検証のために触った限りにおいては、昔に感じたことのある不安定な印象は全くありませんでした。Pro Tools HDがPCIe接続ということもあり、CPU負荷的にもかなり低く抑えられます。複数のアプリケーションで同時にCoreAudio Managerを掴んで同時に走らせたりもしてみましたが、Core Audioのインターフェースとして、いたって普通に動いてくれました。
しかしCoreAudio Managerを介すという通常ではない動作だけに、やはり多少の不安があることも確かです。アビッドさんに聞いたところによると、今後Pro Tools関連のインターフェースはよりオープンに、他社DAWで使用する際の親和性も高めていくとのことです。つい先日発売された新しいMboxファミリーではそのドライバが刷新されました。Pro Tools HD用のインターフェースを紹介するホームページで、Core AudioもしくはASIO対応の他社システムとの互換性を謳っているのも、その姿勢の現れなのではないかと思います。これは多いに期待したいところです。
AVID Pro Tools HD2 Accel + HD OMNI Bundle 販売価格¥1,312,500(税込)
AVID Pro Tools HD3 Accel + HD OMNI Bundle 販売価格¥1,575,000(税込)
Core Audio用のインターフェースとしておいそれと買える値段ではありませんが、現在ネイティブDAWやPro Tools LEを使用されている方でPro Tools HDの導入をご検討されていた方に取っては、本当に魅力的な価格設定になっていると思います。ご興味をお持ちの方はぜひお気軽にお問い合せください。(TEL: 03-3568-8363 E-Mail: info@sounduno.com)
話は変わりますが、今回の特集のためにアビッドさんからHD OMNIをお借りしたタイミングで、何と!Apogee Symphony I/OのPro Tools HD対応ベータドライバが公開されました。Pro Tools HDとの接続はSymphony用のポートと共通、Symphony I/OのフロントパネルでSymphonyモードかPro Tools HDモードかを切り替えるという、驚きの仕様になっております。
ベータドライバですので使用法にまだいくつかの制限がございますが、早速サウンドウーノでも動作させてみたところ、きちんと192 I/Oの代替インターフェースとして動作いたしました。Symphony I/Oはオプションカードを追加することで、1台で最大32イン32アウトの入出力が可能です。サウンドウーノのSymphony I/Oはアナログ16イン16アウト/デジタル16イン16アウトで、32イン32アウトの仕様に拡張しているのですが、Pro Tools HDのインターフェースとして使用すると、2台分の192 I/Oとして認識されました。
Symphony I/OがPro Tools HDのインターフェースとしてきちんと動いてくれるのなら、ネイティブDAWをより多用する場合はSymphony I/Oの選択もありかもしれませんね。機会があればAVID HD I/OとSymphony I/Oとの聞き比べなんかも行ってみたいところです。
今回は非常に文章量の多い特集記事になってしまいました。ここまでお読みいただいた皆様、いつもご愛顧ありがとうございます。それではまたの機会に。
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